ミノル・ヤマダ
サポートすること >> 事務局長のザ・ナショナル・トラスト・レポートバックナンバー

事務局長のザ・ナショナル・トラストレポート

N.T.E.ジャパン・クラブ事務局長が、英国の、日本の、
そして世界のナショナルトラスト活動など、ニュースをお届けします。

2007年3月1日(木)

未来を守る博物館

今から数年前、日本のナショナル・トラストの全国大会で、法政大学の田村明名誉教授から、「博物館は過去を守るが、英国ナショナル・トラストは未来を守る」という言葉をお聞きしたことがあります。英国ザ・ナショナル・トラストの活動、例えば英国の田園地帯にある中世からの村、レイコック・ビレッジの保護と公開を見ると、ホテルはホテル、パブはパブ、民家には人を住まわせ、村全体を本来の姿である「生活の場」として生きたままの保護をしていることに気づかされます。このケースなど、まさにその未来を守っているのだと実感し納得したことを思い出します。その後、この村にある13世紀からの修道院でハリー・ポッターのロケが行われたそうですが、さもありなんと言うところでしょうか。

そんな英国ザ・ナショナル・トラストが昨秋に、その将来の役割の一つとして「独自の新たな博物館」作りに重点を置いてゆくという発表を行ったことに驚かされました。英国ザ・ナショナル・トラストは保護するカントリー・ハウスなどの歴史的な建物の中に、美術・工芸の歴史的なコレクションばかりではなく、家具や什器、テキスタイル、書物、食器や台所用品さらには、馬車や馬具、農耕器具にいたるまで、100万点を越える物品をその資産として所有しています。また、その経験から「博物館、実践からの理念」というレポートを発表したばかりです。この中で、博物館が演じる文化的生活へのユニークな役割について述べています。それは、学問を推進し、異文化への興味を引き出し、歴史を蘇らせ、いきいきとした教育資源を提供。さらに都市部や田園地帯に新たな生命力を与えることであるというものです。 また、博物館は楽しいところであり、2005年の調査では英国人の大人の5人に2人が博物館を訪れており、そのうちの5人のうち4人までもが大変楽しい時間が過ごせたとの結果が出ています。
ザ・ナショナル・トラストの歴史的なプロパティー(保護資産)の責任者、サラ・ステイニフォースさんは「博物館は地域社会とのつながりを作りだすうえにおいてユニークな役割を果たし、全ての年代の人々に学びとスキル・アップの機会を与えています。しかしながら、博物館は山のように膨らむ費用、増大しつつある展示物への危険と利用者からの期待、そして資金獲得の難しさという挑戦を受けているのです。」と指摘しました。

前述のレポートで英国ザ・ナショナル・トラストは、長期間の取り組み、地方行政、地域のエージェンシーと博物館の運営母体とのパートナーシップがますます重要になると強く訴えています。英国政府の「文化・メディア・スポーツ省」のレベルでは、英国の各種の博物館が潜在的に持つ、人々に広範な利益を与える力を再認識してもらうような新しい博物館の行動指針を作るべきだと提言しています。
また、博物館としては省エネや洪水や雨水による被害、夏の気温の上昇、虫を媒体にした新たな感染症などを含む気候変動の影響にも対処することが求められています。そしてとりわけ問題視されているのは、博物館で預かっている展示品のケアの貧弱さです。その対応策の一つとして、英国ザ・ナショナル・トラストが英国政府にコレクションの引き受けや、また国への寄贈においての優遇税制を十分に導入するよう要求しているところです。一方、文化・メディア・スポーツ省は、コレクションの保全のため、永続的に資金を生み出せるよう一般の潜在力を十分発揮させることを要請されています。

サラ・ステインフォースさんは続けて
「国内で十分な措置がないと、コレクションから高級なものが他国に流れ、全体としての価値の低下を招くでしょう。前向きの行動と支援なしでは、多くのコレクションが危機に瀕しています。博物館は広く地域社会に対し、『生活の質』を形成する重要な役割において、ユニークな資源を持っているといえます。彼らが行おうとしている挑戦は対応不可能なものではないでしょうが、実質的に博物館が有する一般大衆へ利益をもたらす潜在性を十分引き出すためには、調整された長期にわたる実践と支援が必要です。」と述べました。

日本での英国ナショナル・トラストの草分けといわれる「鎌倉風致保存会」の活動に参画した作家の大佛 次郎さんは「古く築かれた美しいものが目の前にあってこそ、近代の生命の創造が新しく起こり得る。」と述べています。そのような新生の息吹を感じさせる環境こそ、英国ザ・ナショナル・トラストが目指すユニークな「クオリティ・オブ・ライフ」すなわち「生活の質」なのではないでしょうか。

-以上英国ザ・ナショナル・トラスト公式サイトのニュースなどからご紹介。

バックナンバー