井形慶子さんスペシャルエッセイ >> バックナンバー
素晴らしきかな ナショナルトラストのクルーズ
2007年6月1日(金)
ナショナルトラスト・フォー・スコットランドの主催する「トレジャー・アイランド」という、スコットランド最西端の島々を巡るクルージングツアーに参加する。大きな豪華客船に揺られ、スコットランドの小さな島々を巡るツアーだ。このクルーズにはスカイ島、ルイス島、マル島をはじめ、ナショナルトラストの許可が降りないと行く事のできないセント・キルダ島が目玉となり、行程に組み込まれている。
「外国を豪華客船でクルージング。」と聞くと、なんともリッチでゴージャスなイメージがあり、乗客はドレスやスーツで着飾り、毎晩ラウンジで酒を飲み、ダンスパーティーやカジノで遊ぶというイメージがあるが、今回のツアーは、英国ザ・ナショナル・トラストが主催するだけに従来のクルージングとは全く違うようだ。
まず、パンフレットを取りよせ船内に図書館があることに驚いた。そしてエディンバラ大学の教授や地理学者教授がほぼ毎日レクチャーを開催し、クルージングに関する事からウェスタンアイルズ、ヘブリディーズ諸島についての地理、歴史について専門知識をふまえ詳しく説明してくれる。加えて、毎晩夜の10時からはスコットランドの楽曲をベースにした様々なコンサートを楽しむ事ができるのだ。
クルージングの企画がエディンバラ大学の地質学の教授と、セント・ジルズ大聖堂の責任者が当たったことで、このような知性あふれるプログラムになったのだ。
これまでとはまったく違う知的なクルージングがイギリスの人々に広く浸透しているわけではないが、スコットランドの国に存在するミステリアスな島々について、より知識を深めたい人や、歴史を知りたい人などが冒険心を持って参加するようだ。今回も募集1ヶ月前には、キャンセル待ちが数十名出た。クルージング参加への注意書きの持ち物リストに双眼鏡、レインコート、カメラが含まれているのもおもしろい。
それにしても、乗客が300人も乗り込むことのできる大型船で、私は約一週間、見知らぬ外国人と共同生活を送るのだ。島々の歴史や知識を求めて参加する人々は一体どんなタイプなのだろうか。船内という密閉された空間で、私は彼らに対しどう振るまえば良いのか、船はどれぐらい揺れるのか、事故はあるのだろうかと多種の不安が胸をよぎる。
それでも、私を掻き立てるのは、「未知の地」に足を踏み入れたい、未だ見ぬものを見たい、という強い欲求だ。通いなれたイギリスとはまったく別の顔を持つスコットランドの遠隔地。荒い海に囲まれ、厳しい気候故に、気軽に訪れることができなかったセント・キルダ島、フラナン島は、外からの文化や情報が浸透せず、今日もケルト文化が根強く残っている。ウェスタンアイルズの人々は今でもほとんどの人がゲール語を話すと聞いた。
厳しい島の気候に耐え抜きながら暮らす人々の生活とは、人生とはどんなものなのだろうか。それを1週間の間に垣間見る事のできる英国ザ・ナショナル・トラストのクルーズに胸を躍らせれている。
